京都・岡崎で心安らぐひとときを│近代日本庭園の巨匠「七代目植治」の美を訪ねる

都会の喧騒から離れて、ただ静かに、心穏やかな時間を過ごしたい。そう感じることはありませんか?もしそうなら、京都の奥深い魅力、特に「庭」が持つ特別な美しさに浸ってみるのがおすすめです。

古都の寺社仏閣の庭も素晴らしいですが、近代日本庭園の礎を築いた「植治(七代目小川治兵衛)」が手がけた、京都・岡崎エリアの庭園を巡る旅をご提案します。

地元の人も知らないような、とっておきの場所。美しい庭園を巡ることで得られる心の安らぎや、新しい自分に出会うような体験を、この記事で少しでも感じてもらえたら嬉しいです。


植治(七代目小川治兵衛)とは?:近代日本庭園の美意識を知る

「植治」とは、明治時代から大正時代にかけて活躍した作庭家、七代目小川治兵衛のこと。彼の名を冠した「植治の庭」は、現代の私たちがイメージする日本庭園の美意識に、大きな革新をもたらしました。

彼が手がけた庭園の最大の特長は、琵琶湖疏水から引き込まれる豊かな水を巧みに活かした、流れるような水景です。まるで自然の渓流がそこにあるかのように、生き生きとした水の動きが庭全体に躍動感を与えます。また、当時の日本庭園では珍しかった芝生を積極的に取り入れたことも、彼の革新性を示す点です。これにより、従来の庭よりもずっと明るく開放的な空間が生まれ、訪れる人の心を和ませます。東山の山並みを借景として取り込むことで、庭園の中に広大な自然が連続しているかのような奥行きを演出するのも、植治の得意技でした。

彼は、政治家や財閥の別邸庭園を多く担当し、人工的な造形よりも自然の動きや景観を重視しました。その美意識は、ただ美しいだけでなく、見る人の心を深く癒し、穏やかな気持ちにさせてくれる、そんな魅力に満ちています。


訪れるべき「植治の庭」4選:岡崎エリアで出会う癒しの空間

京都市内の東部に位置する岡崎エリアは、美術館や博物館が集まる文化ゾーン。その中に、植治が魂を込めた素晴らしい庭園が点在しています。それぞれの庭が持つ個性や、そこに宿る植治の思想を、ぜひご自身の目で感じてみてください。

1. 無鄰菴(むりんあん):植治代表作、近代日本庭園の最高峰

岡崎の静かな住宅街にひっそりと佇む無鄰菴(むりんあん)は、明治の元老・山縣有朋の別邸として、植治が手がけた庭園です。ここはまさに、「近代日本庭園の最高峰」と称される傑作。

庭園に一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、東山の雄大な借景を巧みに取り込んだ、広がりと奥行きのある景色。そして、琵琶湖疏水から引き込まれた水が、滝となり、小川となって庭園内を巡る様子は、まるでそこに自然の渓流があるかのようです。特徴的なのは、当時としては珍しかった明るい芝生が早期に導入されている点。これにより、庭全体が開放的で、のびやかな印象を与えています。山縣有朋の美意識と植治の作庭哲学が溶け合ったこの庭は、ただ美しいだけでなく、都市住宅庭園としての機能美も兼ね備えています。縁側に腰掛けて、流れる水の音に耳を傾け、四季折々の緑や花々を眺める時間は、きっと心に深い安らぎをもたらしてくれるでしょう。

2. 平安神宮神苑:広大な敷地に広がる、雅やかな伝統美

岡崎のシンボルともいえる平安神宮。その広大な敷地の奥に広がる平安神宮神苑も、植治が作庭を手がけた見事な庭園です。神社の庭園として、伝統的な様式美と植治ならではのモダンな感性が融合しています。

神苑は、西神苑、中神苑、東神苑と、それぞれ異なる趣を持つ池泉回遊式庭園が巡らされています。特に、東神苑の「泰平閣(橋殿)」から眺める南神苑の「蒼龍池」の眺めは圧巻。朱色の社殿と緑豊かな庭園のコントラストは、まさに雅な平安の都を思わせる美しさです。琵琶湖疏水の水が豊かな水量で流れ込み、池に浮かぶ橋や季節の花々が、庭園に彩りを添えます。広い園内をゆっくりと散策しながら、神聖な空間と自然の美が織りなす、ゆったりとした時間を堪能してみてください。

3. 對龍山荘(たいりゅうさんそう):非公開のベールに包まれた、幻の植治の庭

近年公開となった對龍山荘(たいりゅうさんそう)は、近代の財界人が築いた別荘の庭園で、ここにも植治の作庭による美しい景色が広がります。琵琶湖疏水の水を引き込んだ池泉回遊式の庭園は、植治が得意とした明るく開放的な空間が特徴です。

自然の地形を巧みに活かし、あたかもそこに元々あったかのような水の流れや、計算され尽くした石の配置など、植治の真骨頂が詰まった庭園。四季折々の花が開花し、いつ行っても美しい情景が見られます。

4. 並河靖之七宝記念館庭園:繊細な七宝と水の庭が奏でるハーモニー

平安神宮からほど近い東山区にある並河靖之七宝記念館。ここは明治時代に活躍した七宝家・並河靖之の旧宅兼工房で、彼の精緻な七宝作品を鑑賞できます。しかし、この記念館のもう一つの顔は、七代目小川治兵衛のデビュー作とされる、見事な水の庭です。

邸宅のガラス戸越しに見える庭園は、まるで額縁に入った一枚の絵画のよう。植治らしい、琵細な水の流れと、巧みに配置された石が織りなす景観は、七宝作品の繊細さと響き合い、独特の調和を生み出しています。この庭は、まだ若き植治が、いかに水と自然の美しさを表現しようと試みたかを示す、貴重な作品ともいえるでしょう。作品を鑑賞した後に、庭に出て水のせせらぎに耳を傾けながら、心穏やかなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。


岡崎エリア散策のススメ:庭園巡りと合わせて楽しむ周辺情報

今回ご紹介した植治の庭園の多くは、京都市の文化ゾーン「岡崎エリア」に集中しています。このエリアは、庭園巡りだけでなく、他にも魅力的なスポットがたくさんあるので、一日を通してゆっくりと散策を楽しむことができます。

例えば、京都市京セラ美術館や京都国立近代美術館といった大規模な美術館、または少し足を延ばして南禅寺周辺の風情ある寺院を訪れるのもいいでしょう。疲れたら、おしゃれなカフェで一息つくのもおすすめです。岡崎エリアは、市バスでのアクセスも良く、徒歩でも快適に移動できるので、自分だけのペースで散策計画を立てやすいのも魅力です。


心が満たされる、あなただけの「京の美」を見つけに

京都の庭園は、ただ眺めるだけでなく、そこに流れる時間や、草木がささやく音、風の香り、そして何より作り手の想いまで感じられる、五感で楽しむアートです。今回ご紹介した植治が手がけた庭園たちは、どれも都会の喧騒を忘れさせ、心に深い癒しと安らぎをもたらしてくれるでしょう。

日常のストレスから解放され、新しい自分に出会うような旅になるかもしれません。ぜひ実際に足を運んで、ご自身の感性でその美しさを感じてみてください。きっと、あなただけの特別な「京の美」が見つかるはずです。

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